2008/09/17

聖☆おじさんはかく語りき



YouTube - dan le sac Vs Scroobius Pip - Thou Shalt Always Kill

dan le sac Vs Scroobius Pip - Angels(日本版サイト)

ちょっと前に話題になったダン・ル・サック Vs スクルービアス・ピップ(dan le sac Vs Scroobius Pip)の「Thou Shalt Always Kill(汝、つねにキメるべし)」のPVが面白い。ポップ・ミュージックの世界における度を超えた偶像崇拝(「どんなに素晴らしいとしても、ミュージシャンやアーティストをバカみたいに崇めたてまつるなかれ」)、トラックメイカーの怠惰とやっつけ仕事(「反復的属性の音楽を作るなかれ」)、リスナーの飽きっぽい浮気性(「人気になったからと言ってバンドを愛するのをやめるなかれ」)、ライブでの決まりきったコール&レスポンス(「俺がヘイと言ってもホーと言うなかれ」「メイク・サム・ノイズと言ったらキメろと言え」)などなど、音楽の世界にはこびる慣習やルールを舌鋒鋭く批判しながら、名盤とされるレコードを「ビートルズもツェッペリンもピクシーズもただのバンドだ」と放り投げていく。パンクな批評精神が痛快だ。



YouTube - LCD Soundsystem - Losing My Edge

で、こういうのってあったよなーと思い出したのが、LCDサウンドシステムの初期のシングル、「Losing My Edge(俺は日に日にエッジーじゃなくなっていく)」。生ドラムと生シンセの反復によるラフでソリッドなエレクトロ・パンクなサウンドも、LCDサウンドシステム=ジェームズ・マーフィーが音楽バカでオタクな自分を老いぼれていく元ヒップスターに重ね合わせる自嘲気味なリリックもよく似ていて、たぶん、「Thou Shalt Always Kill」を作る際にインスピレーションになったんじゃないかな。


1968年、ケルンでカンが最初のショーをやった時、俺はそこにいた
1974年、ニューヨークのロフトでスーサイドのリハに立ち会い、
俺はオルガンを辛抱強く鳴らしていた
キャプテン・ビーフハートが初めてバンドを作った時、
俺は「一銭にもならないからやめた方がいい」と忠告した
パラダイス・ガラージでラリー・レヴァンがDJしていた時、俺はそこにいた
ジャマイカで偉大なサウンド・クラッシュが行われていた間、俺はそこにた
1988年、イビザのビーチで俺は裸で目覚めた

俺は老いぼれていく
62年から72年までの名バンドのメンバーをインターネットで検索して言える奴ら
俺は老いぼれていく
記憶にない80年代を借り物のノスタルジーで懐かしむブルックリンのアートスクール連中
俺は老いぼれていく
より良いアイディアとファッションと才能に溢れた人々はとんでもなくイカしてる

(LCD Soundsystem - Losing My Edge、リリック全文はこちら)。


「Losing My Edge」で語られるヒップスター(彼は「Thou Shalt Always Kill」よりずっと内省的で自己言及的ではある)は、ポップ・ミュージックの歴史的事件にすべて立ち会ってきたとウソぶく名うての「聖☆おじさん」(by 電気グルーヴ×スチャダラパー)だ。最高の音楽を知っている俺は最高にクールだと思っているインディーキッズは、彼のことを笑えない。すでに価値が定まったモノに仮託して自分は価値があると思っているのだから。

「Thou Shalt Always Kill」でたくさんの名盤が取り沙汰されるところは、エリカ・バドゥの「Honey」のPVを連想させる。



YouTube - Erykah Badu - Honey

エリック・B&ラキム、NAS、ファンカデリック、ミニー・リパートン、デ・ラ・ソウル、オハイオ・プレイヤーズ(「Honey」のタイトルはここから)、グレース・ジョーンズ、ビートルズ、ジョン・レノン&オノ・ヨーコ(ローリング・ストーン誌)。それらのジャケットがモノクロの画面でカラーに色づく。こちらはより穏当でノスタルジックな雰囲気だが、最後に「ローカルのレコード屋をサポートしよう」というテロップが流れて、ピリリと空気を引き締める。こうしたメッセージ性の強いレコードやPVが同時多発的に出てくるのは偶然ではないし、音楽を取り巻くいまの状況と密接につながっている。ところで、エリカ・バドゥは恥ずかしながら今年になってちゃんと聴き始めた。黒人音楽の定型をトレースしながらそこからハミ出していくしなやかさが魅力で、最新作「New Amerykah, part 1: 4th World War」は傑作だと思う。



YouTube - dan le sac Vs Scroobius Pip  - Letter From God to Man

最後は、ダン・ル・サック Vs スクルービアス・ピップに戻って、「Letter From God to Man」。レディオヘッドのサンプリングがブレイクコアのドラミングとミックスされる高揚感はナカナカのもの。PVの途中で、アンディ・ウォーホルとバスキアがボクシングの格好をした有名なポスターのパロディがチラッと映る。同曲のリリックを使ったPVはこちら

今回紹介したヴィデオは、どれも低予算のワンアイディア勝負というところがいい。LCDサウンドシステムのPVなんてずっと顔を引っぱたかれてるだけだし・・。

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