2008/10/15

重厚長大なアップルのノート



アップルがノートブックを刷新した。今回のメジャーアップデートで、iPodを含むほぼ全てのラインアップがアルミとガラス、シルバーの筐体とディスプレイ周りの黒ブチのツートーンで統一され、アップルと言えば白、という時代が終わりを告げる(白いMacBookは販売継続)。これは大きな変化だと思う。

フロッグ・デザイン時代のアップルはベージュ色だった。僕が最初に買ったMac、LC475という平べったいハンペンみたいなマシンもベージュというかクリーム色。クリーム色に虹色のアップルロゴは、カリフォルニアの青い空から運ばれてきたアカルイミライだった。この頃の知育玩具のように微笑ましく可愛いデザインの痕跡が残っているのは、今ではDock上のファインダーアイコンの顔マークぐらいか。当時の雰囲気を伝える「MacBoy」はいまだに捨てられない。

スティーブ・ジョブズがアップルに復帰して、フロッグ・デザインからジョナサン・アイブ率いる社内デザインチームに交代し、カラフルなキャンディバーみたいなiMacがデビューした。後で知ったことだけど、当時のアップルは業績も社内事情もガタガタだったから、デザイン言語の劇的なシフトは、実は四面楚歌の崖っぷちで瀕死の人間が繰り出した捨て身の起死回生策だった。

ポリカーボネイトを採用したトランスルーセント時代のMacは異形の生き物みたいで、なんというか、アールデコやマシンエイジのデザインに匹敵するパンチの効いたツラをしていると思う。アメ車のテールフィンみたいな(笑) 例えば、日本には正規輸入されなかったeMate 300は、アグレッシブな外骨格を得た初代iBook+PowerBook G3÷2(心臓はニュートンOS)といった特異なデザインだ。フロッグ・デザインが優等生的なよい子ちゃんだとすると、この頃のMacはマッシブな不良=ワルの匂いがする。

2001年から、アルミニウム&シルバーはプロフェッショナル向けのPowerBookやタワー型Mac、ポリカーボネイト&白はコンシューマー向けのiBookやiMacという住み分けができた。トランスルーセントから一転してミニマリズム一直線なデザインで、不良が更生して背広を着るキチンとしたオトナになった風。よく白物家電という言い方をするが、家電=白という信仰はいまだに根強い。代わり映えのしない電化製品における白のイメージをアップルはリファインした。


hey | by tofslie » Blog Archive » Apple Evolution Poster
アップルのデザインの歴史をコンパクトに一枚にまとめた画像。

アップルのハードの外見はOSの進化とも連動している。アクア(Aqua)のジェリービーンズ風ボタン、ブラッシュメタルとプラスティックメタル=ザラザラとツルツルのウィンドウ。OSのヴァージョンアップのたびにアップルが提案してきたトレンドが混在するインターフェイスは、DESIGN HUB:Leopardの登場で、アピアランスの統一叶うで指摘されているように、最新OSのLeopardで一応決着を見たようだ。「ようだ」と自信のない語尾になるのは、僕がいまだにひとつ前のTigerを使っているから。

OSのアピアランスと言えば今も昔もグレーが主体で、そこにアクアブルーとグラファイトでアクセントをつけたアップルが次に取り入れたのが黒。たしかに黒は画面を引き締める。ディスプレイの黒ブチは、OSのアピアランスを外在化しようという意志の現れだと思う。MacがiPhoneのインターフェイスに近づいているというか、ハードとOSの境界にあるディスプレイの縁を黒くすることで、両者を限りなくシームレスにしたいのだろう。

今回の発表の感想としては、TKYSSTD: 節目のNew MacBook & MacBook Proに書かれた「せめてもっとアノニマスなデザインならいいんだけど。アメリカンな大味なデザインだよ、やっぱり」という意見にほぼ同意。iPhone 3Gの黒い方を実際に見た時に、黒いiPodや黒いMacBookには感じなかったような違和感があった。うまく言葉にできないけれど、白物アップルに対するカウンターだったハズの黒がトゥーマッチに思えて、なぜかミッドセンチュリーなアメリカンを感じてしまった(たぶん、黒のプラスチックボディとシルバーのリブの配分に由来すると思われる)。

ベージュ(プラスチック)>トランスルーセント(ポリカーボネイト)>シルバーと白と黒(アルミニウムとポリカーボネイト)>シルバーと黒ブチ(アルミニウム)。大まかにアップルのデザインを時代ごとに並べると、ツンとデレが交互に来ているのでは?(笑) 2000年代を引っ張ったプレーンなスタイルから、よりアクの強い男性的なスタイルへ? 一枚板のアルミを削り出すというエンスー(死語)な打ち出し方がとても男の子的でプラモデルな原理なわけで。

新型『MacBook』:アナリストの意見は「価格が高すぎる」 | WIRED VISIONで指摘されてるように、金融崩壊で資本主義が是正を余儀なくされる時代において、すべてのコンシューマーに剛性感あるアルミで覆われたハイスペックなノートブックを、というのは果たして正解なのだろうか? もはやコンピュータをハードの魅力でどうこう語る時代ではないのは了解しているが、アップルにThinkPadのような金太郎飴的なデザインを求めてはいないというか(ThinkPadはリチャード・サパーによる珠玉のプロダクトで好きだけど)。

重量級のベンツやボルボやプリウスではない、ミニやゴルフやフィアット・パンダ(まぁこれは僕の趣味)みたいな選択肢があってもいいと思う。プラスチッキーでいいからチープシックな革命を!とつぶやいてみる。

*追記

新発売の「MacBook」と「MacBook Pro」を、旧モデルと比べてみました(写真ギャラリーあり) : Gizmodo Japan(ギズモード・ジャパン), ガジェット情報満載ブログ
MacBookは旧モデルより若干軽くなり、MacBook Proは若干重く大きく。うーむ。ノートは持ち歩かずiPhoneや(来年には出る?)NetBookでモバイル、ということなのか・・。

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