2008/10/09

Tilt Shiftの箱庭世界

前景がハッキリして後景がボンヤリした、ボケ味のある写真があるシズル感をもった「気持ちいい」イメージとして定着したのはいつ頃からだろうか。LOMOやHOLGAといったトイカメラが流行ったり、ポラロイドがリバイバルしたり。記憶は定かじゃないけれど、ボケ味のある写真は、90年代からこっちのライフスタイルというか生活意識というか風景を確実に変えたように思う。

今年の春に「チャールズ・イームズ写真展 100 images × 100 words」を観に行った。「いまさらイームズ?」という声もあるだろうけれど、そこはそれ、ムーブメントの宿命ということで。とっくにインテリアブームが過ぎた3年前に目黒美術館で観たイームズ展もギュッと凝縮された中身の濃い展覧会で、ミッドセンチュリーなポップなインテリアには興味を持てない自分でも、イームズが体現したアメリカが一番エネルギーに満ちていた時代の空気に何かしら鼓舞されたりアテられたりしたのだった。

「100 images × 100 words」は、チャールズ・イームズが終世に渡り撮りためたポラロイド写真と彼の言葉と一緒に展示した、こじんまりとしていながら芯のある展覧会で、そこで上映されていたポラロイドにまつわる映画も、身の回りのものを嬉々として写真に納めて再構築・再発見するという、その能天気なまでにポジティブな振る舞いがゼロ年代にはまぶし過ぎて新鮮だった。ポラロイドのフィルムが生産終了になったのは、時代の流れとはいえ残念。

前置きが長くなったが、最近、TILT SHIFTと呼ばれる疑似ミニチュア写真をよく見かけるようになった。本来はティルト・レンズという高価なレンズを使った手法で(TILTとSHIFTという2つのレンズ効果を使うのでこの名前がついた)、それをパソコンでシミュレートしたフェイク写真が、例えば、FlickrのThe Tilt-shift miniature fakes Poolなんかにいっぱいアップされている。TILT SHIFT写真に特化した日本人のブログ、lilliput*project:the bitter*girlsもあるほどだ。

英語版Wikipedia、Tilt-shift miniature fakingに掲載された写真を拝借すると、こんなカンジ。


オリジナル


オリジナルにTILT SHIFT効果をかけた写真

意図的にコントラストが強く、ディティールが飛んだ、被写体深度の浅い写真にすることで、太陽光ではなく人工照明に照らされたミニチュア感を醸し出す。ミニチュア感を増幅させるため、俯瞰写真が使われることが多い。実際にどうやるのかは以下のサイトを参照のこと(3つ目の英語サイトはカメラによる効果、他2つはPhotoshopのようなレタッチソフトによる効果の説明)。

Photoshop Tips - 風景写真をミニチュア写真に加工するには - by StudioGraphics

stone::tamaki: Tilt-shift miniature fakes

Build a Tilt-Shift Camera Lens for Peanuts | CreativePro.com

日本だと本城直季が第一人者で、僕も何年か前に彼の写真でこんなことができるんだ!と知ったクチ。

僕たちはすでに誰かに作られた世の中に住んでいて、何の疑問も持たずに、それを前提として当たり前のように暮らしている。たぶん、自分が写真をやっていなかったら、そうした事に気づかなかったと思うんです。「写真」という表現によって、初めて客観的に認識できる。(本城直季 - Tokyo Source)

彼の言う通り、日常で感じる自己不全感とか、アーキテクチャーの中に組み込まれている自分(普段はそれを意識しないように巧妙に管理されている)というのはとても今っぽいテーマで、ファンシーで可愛いTILT SHILT写真を「気持ちいい!」と感じる裏にはそういうコワモテな現実があるってのが面白い。

難しい話はともかく、こういう技法って広まると薄まるの法則で、しばらく大量のTILT SHILT写真を見続けてると飽きてくるのも事実(やはりプロが撮ったのは一味違う)。次なる野望じゃないけど、この写真が動いたらスゴいんだろうなと思っていたら、人間の欲望は必ずどこかで誰かが実現するもので、ISO50で発見。


Bathtub III from Keith Loutit on Vimeo.

リンク先に3つ、映像がアップされている。

BGMに使われているSonido Lasser Drakarの音楽がいかにも80年代風のニューウェイヴ・エレクトロで、映像のキッチュな箱庭テイストとの相性がイイ。あと、写真も映像もどこかに人間が入ってる方が断然面白い。俯瞰ショットと人物のバストショットを自由に行き来するようなTILT SHILTモーション・グラフィックが、「マトリックス」がブレットタイムを活用したように商業映画に取り入れられるのはそう遠くないと思う。

*10.11追記

個人的に気に入っているのが、Flickrで見つけた東京タワーからの都市景観のTILT SHILT写真。ビフォーアフター。崇高さや不気味さを感じさせる壮大な夕景がミニチュア化されると印象がガラリと変わる。大きい画像じゃないと面白さが伝わらないので、画像上部の「ALL SIZES」ボタンを押して見てほしい。オリジナル画像はHDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)で作られていて、すでに非現実感があり、さらにTILT SHILTで非現実感が二重になっている。リアルなのにアンリアルという現実と虚構の皮膜のようなイメージにはどうしても吸い寄せられてしまう。

*10.17追記

上で紹介した動画、アチコチで話題になってるみたいで、ジオラマのコマ撮りのような映像を「逆ティルト」で撮影する(動画) : Gizmodo Japan(ギズモード・ジャパン)という記事を発見。TILT SHILTが「逆ティルト」って訳されてる。トム・ヨークのPVにすでに使われていたのは知らなかった。2006年だから早いね。さすが。

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