渋谷駅のバス停に降り立って、ふと目に入ったのが、プロペラをつけたベースボールキャップをかぶったおじさんの姿。彼がその場所で販売する「The Big Issue」の80号と82号を買ってみました。存在は知っていたものの、まさか、いつも通るその場所でソレが売られているとは知りませんでした。自分の視野狭窄を戒めるために、というのは全くの口実で、どんなことが書いてあるのかに興味があり、手に取ってみました。
本国の記事もあるけど、ほとんど日本オリジナル仕様のようです。ことさらエッジーではありませんが、特定の層に向けた偏向した作りではなく、読みやすくしっかりした内容です。連載では、斉藤環と料理研究家の枝本なほみの名前が。「The Big Issue」の表紙はハリウッドスターなどのセレブリティが多いのですが、ソールドアウトになった号は初期をのぞくと、アリシア・キーズ、アンパンパン&やなせたかし、ディック・ブルーナ、そして、なぜかジョニー・デップが三回もカウントされています。
80号までは200円で、81号から300円に値上がりしたとのこと。これは80号にインタビュー掲載されている「The Big Issue」創業者のジョン・バードが来日した際、日本における事情を知ってすぐに値上げさせたからとおじさんは説明してくれました。少年院暮らしをしていたこともある労働者階級のジョン・バードがボディ・ショップの社長と出会うことで生まれた「The Big Issue」。ちょっと横道にそれますが、世界の図書館で最も蔵書数が多いのは大英図書館がダントツで約10億冊。国会図書館は3000万冊(ソースはR25.jp)。規模が違う。イギリスの懐の深さ、あるいは大英帝国がいかに世界に君臨していたかを示すような数字です。
「その帽子はタケコプターですか?」とおじさんに聞くと、「これはプラスチックで出来てるからプラコプターなんだよ」と笑いながら答えが返ってきました。高田馬場のホームセンターで50円で売られていたというこの帽子のおかげで声をかけてもらうことが増えたそうです。失礼ですが、彼のファンキーな格好で想起したのが、大友克洋の「童夢」に出てくる超能力者の老人です。社会的弱者と見なされている者がガラクタやガジェットを収集して身を飾ったり自分の王国を作るというのは、本来の対抗文化のひとつの構成要素としてあるのでしょう。僕のホームレスに対するイメージがおじさんと話すことで変わりました。
いま、この文章を書きながらiTunesのパーティシャッフルで曲を聴いていたら、英国人のミニマリスト、ギャビン・ブライヤーズの「Jesus' Blood Never Failed Me Yet」が流れてきました。「イエスの血は決して私を見捨てないだろう」というホームレスの歌がループしてコーラスやストリングスが重なっていくとても物悲しく陰鬱な曲です。毎日聴きたいという曲ではありません。ただのムード・ミュージックとして消費されないプレゼンスのある曲です。この偶然にはビックリしました。
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