2008/09/05
Genius Party
「Genius Party Beyond」の予習もかねて、スタジオ4℃によるオムニバス映画「Genius Party(ジーニアス・パーティ)」を観た。
オープニング
監督は福島敦子。改めてこの人のキャリアを調べると、マッドハウスに始まり「迷宮物語」「ロボットカーニバル」「AKIRA」と、リアル系オルタナティヴなジャパニメーションの系譜(ものすごく大雑把な括りで申し訳ない)の真ん中にいた人なんだとわかる。大友克洋の影響があるのはだから当然で、そこに女性らしいファンタジスタの要素も。「Genius Party」の中では、湯浅政明と同じく、最もアニメーションの快楽を感じさせる出来映えで好き。音楽は井上薫。マニュエル・ゲッチング風味の躍動感あるトライバル・ダンス・ミュージック。
上海大竜
監督は河森正治。「ダークナイト」を通過してしまった自分には、ヒーロー物の解釈がとても幼稚に見えてしまって。(ごめんなさい)
デスティック・フォー
監督は木村真二。「鉄コン筋クリート」の凄まじい美術の描き込みに驚いて、名前を覚えた人。これも期待に違わず、大友や松本大洋の意匠をフルに使い倒した、とはいえ、森本晃司とはまた違う解釈でブラックな異世界をフルCGで堪能できる。作風としてはもはや新しくはないが、動きも美術も緻密で完成度が高い。音楽はスタジオ4℃の「マインドゲーム」に続いて、山本精一。独自の諧謔感あふれるスラップスティックな音楽が画面にピッタリと寄り添う。この路線で、木村真二に長編を作ってもらいたい。
ドアチャイム
監督は福島庸治。懐かしい名前だなぁ。福島庸治の漫画は大友克洋チルドレンがわんさかいた時代にそれなりに読んでいた。不条理な漫画が得意で、本作もその系統。美術は山本七郎で、冒頭の踏切のシーンも含め、彼が美術を手がけた「時をかける少女」を思い出す。水彩画のように空気感を濃淡にしのばせる彼の絵は、日本のアニメーション美術の至宝だと思う。キャラクターデザインがイマイチで、この中では一番洗練されていない。音楽はコンボピアノ。言われないとわからない、控えめな劇伴という印象。
LIMIT CYCLE
監督は二村秀樹。唯一知らない名前。ペヨトル工房とか工作社なんて名前を思い出す、難解で形而上学的なエイティーズ・サブカル一直線な作風が個人的にはむずがゆく、ちょっと気恥ずかしかった。パロールとか表徴とかナレーションで言われても・・・。イコノロジーを映像化するというのはわかるが、今ならもっと違うやり方があるのではないか。20分は長い。せめて10分にまとめていたら印象は違ったかも。主人公のキャラデザは、ジェームズ・ディーンの写真をトレースしていると思う。音楽はフェネス(Fennesz)。後でクレジットで知ってビックリ。
夢みるキカイ
監督は湯山政明。この並びで文句なく一番好きな作品。「マインドゲーム」で湯山政明はとてつもない才能だなと認識した。メルヴィルの「白鯨」や「ピノキオ」を思わせないでもないクジラ内部でのサバイバルゲームも面白かったし、何よりもクルクルと絵柄が変わる神様の描写で「アサー」の谷岡ヤスジを引用していたのに舌を巻いた。なんて自由な表現なんだろうと思った。本作も「マインドゲーム」に続いて、生と死を真っ向から描いている。主人公の子供が旅で出会う異生物はことごとく食物連鎖のサイクルの一部として死んでしまう。食虫植物のような生命体に分け入って、友達になった異生物をなんとか助けようとする場面のエモーションはウソがない。旅の最後で、主人公は機械人間のような成れの果てになって、その生命の連関の一部として自らの命を差し出す。音楽は竹村ノブカズで、湯山の才気とがっぷり4つを組んでいる。竹村の作風はこのようなアニメーションにとてもフィットする。この作品のキビしいがホノボノとした世界観やゆったりとしたタイム感は「ファンタスティック・プラネット」のルネ・ラルーに似ていて、おそらく多少なりとも意識しているのではないか。
BABY BLUE
監督は渡辺信一郎。この中では一番安心して見られるごくフツーの青春モノだが、ディティールの追求に余念がない。新宿駅から京王線で明大前を経由して井の頭線で下北沢、そこから小田急線で江ノ島に至るまでの風景を忠実にロケハンしていて、同じコースを辿ったことがある人は二倍楽しめるだろう。電車の吊り広告でスタジオボイス(小山田君が表紙の90年代サブカル特集)やWARPマガジンも確認できる。最後の花火のシーンはベタながら感動を誘う。音楽は菅野ゆう子で、主人公の声を最近自殺未遂を犯した柳楽優弥が演じている(いきなり10代でカンヌで注目される人生とはどれだけ本人を痛めつけるものだろうかと思う。復活を陰ながら応援したい)。
若い人がこの作品をどう観るかはわからないけれど、かつて大友に熱狂し、最近の大友の失速ぶりにガッカリしている自分のような人間には、溜飲を下げさせてくれる作品群だった。こうした実験的な試みは(売れるかどうかは別として)もっとあってしかるべきとも思う。音楽のキャスティングも適材適所でツボだった(皆ベテランで安心して聴けるというのも大きいかもしれないが)。大友好きには「デスティック・フォー」か「オープニング」、アニメーションに関心があるすべての人に「夢みるキカイ」を。
STUDIO 4℃
GENIUS PARTY OFFICIAL WEB SITE
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