すいません。ココから長くてクドいです。
'Adepressive Cannot Goto Theceremony' by Imoutoid
昨年亡くなった後に彼のことを知りました。萌えカルチャーに疎くサンプリングされたアニメの原曲も知らないんですが、Maltineからリリースされた3曲、特に「Part3」のソフィスティケイトされた音にノックアウトされました。切り刻まれたヴォイスがポップにせめぎあう空間(=「桜雪の舞う」という歌詞とサウンドの一致)が、曲のコーダで挿入される不穏なパッド・サウンドによってねじ曲げられ、日本人的な湿った情念が浮かび上がるというアレンジの巧みさは、タダモノじゃないです。90年代的な渋谷系な「サバービア」ではなく、ゼロ年代的な「郊外」で鳴ってる音。殺風景なロードサイドの虚無に覆われた空間を音で埋め尽くすような強迫神経症+10代にしか出せない刹那感。いくつか聴いた中では、この曲と、Tomad氏がゼロ年代を代表する曲として選んでいた「ファインダー (imoutoid's Finder Is Not Desktop Experience Remix)」が突出してるように思いました。
http://maltinerecords.cs8.biz/14.html
'Ambivalence Avenue' by Bibio
アーティスト単体の新作として去年一番よく聴いたBibioを挙げます。ずっとビートレスだったBibioが、この作品ではブレイクビーツを導入し、トレードマークだったボーズ・オブ・カナダ的なトリートメントを曲から取り除くことでより霧が晴れたように輪郭がクリアになり、内向的な音が外に開いていくようなポジティヴさを感じます。
ジェイ・ディー仕込みの骨太なビーツに甘酸っぱいヴォイス・サンプルをチョップしてトッピングした「Fire Ant」と「S'Vive」(この2曲は双生児のような関係)は、ゼロ年代に大量生産されたメロウでジャジーなヒップホップとは一味も二味も違うし、Warp直系のエソテリックなメロディを被せた「Sugarette」と「Dwrcan」は、Bibioの友人でもあるクラークに感じるタテノリのリズムの物足りなさをヨコに組み替えるだけで、こんなに腰を落ち着けて聴けるのかと驚きます。スライを思わせるソウル・マナーの「Jealous Of Roses」は、この中ではやや異色。
これらブレイクビーツ主体の曲と対照的に、「Ambivalence Avenue」「Haikuesque」「Lovers' Carvings」、クラップが軽やかに打ち鳴らされブラジル音楽とイギリスの田園が思い浮かぶフォークが溶け合った3曲は、Bibioの歌モノとしては現時点で最高の出来映えだと思います。Bibioつながりで高橋健太郎さんにTwitter経由でArthur Verocaiのことを教えていただいたのも、2009年っぽい出来事として印象に残っています。
http://www.myspace.com/musicabibio
'Moscow Dub' & 'Sick House 2' by Killer Bong
たぶん、ブレイクビーツに関してはそれなりに聴いてきた方だと思います。良くも悪くも酒や煙草のように嗜好品として体に染みついてしまってるのかもしれません(煙草は吸いませんが・・)。マッドリブやジェイ・ディー以降、ご他聞にもれずフライング・ロータスやハドソン・モホーク(新作でDam Funkとコラボしたのはうれしい誤算)なんかを追いつつ、それらともまた違うKiller Bongのロウキーな辺境系ブレイクビーツに、遅ればせながらハマりました。紛れもなくアンダーグラウンドな音ですが、狭いサークルで聴かれるのがもったいない気もします。特に、ハウスを取り入れたこの2作品がお気に入りで、「Moscow Dub」はビル・ラズウェルのような先行世代のヘヴィさを程よく中和し、「Sick House 2」はクリック・ハウスやポールのようなベルリン・ダブを完全にモノにしています。去年の正月は、「Sweet Dreams」の原稿のためにSublime Frequenciesレーベルのマージナルな民俗音楽を集中的に聴くという貴重な体験をしたんですが、後半にKiller Bongを聴いて、自分の中で一本の線がつながった気がします。
http://www.powershovelaudio.com/album/xqbp1016/
'Balance' by 砂原良徳
ここ数年、鬱だと噂されていた沈黙期間を経て、昨年復活を遂げたこと自体がとてもうれしいニュースでした。これはその復活を告げるサントラではなく、2002年の「Lovebeat」に入っている曲。波のようなシークエンス、マントラのように唱えたくなる(笑)「Balance, Difference, Flat, Oneself」と繰り返す無機質なヴォイス、5分あたりから聴こえるエアリーで温かいシンセにギュッと鷲掴みされます。クラフトワーキアン砂原による鎮痛剤サウンドには、個人が20世紀的なエゴの重力から解き放たれ、フラットな時空に浮いている、そんなイメージもあり、2010年代/並行世界/Twitter時代を先読みしているようです。外に出かける時、iPhoneでたぶん去年一番よく聴いた、自分にとっての精神安定剤でした。YouTubeで砂原良徳を検索すると真っ先に出てくる、庵野秀明「ラブ&ポップ」とのマッシュアップ、音と映像のミスマッチぶりが妙にツボに入る出来だったので貼っておきます(イントロ部分は原曲に付け足したもの)。
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