今回から今の季節に合うアルバムをいくつか紹介します。(いきなり前回とトーンが変わりますが・・汗)
Natural Blaze: Blaze Presents the James Toney Jr. Project
一点の曇りもない晴天の霹靂のようなハウス・アルバム。とにかくスムーズの一言。もちろん、ブラックネスの憂いや躍動は通奏低音としてあるのだが、臭みや濁りはまったくない。それらは濾過されてミネラル・ウォーターのように澄み切っている。優れたハウス・プロデューサーであるヘンリク・シュワルツがドイツ人の視点でベルリンの硬質な音響を武器にブラック・ミュージックへの憧憬を再構築する時、その「ディープ」というジャンルというより指向、ベクトルの中に滲み出るのは、いびつな風景であったり黒々した暗い感情の濁流だったりするのだが、アメリカ人でも黒人でもないアーティストが必死に手に入れようとする強度みたいなものはブレイズの音の表面からはとりあえずは聴こえてはこない。アフリカン・アメリカンである彼らにはもともと備わったもの、だから「Natural Blaze」なのか?
爽やかなブラジリアンのメロディを持つ「Elevation」はこのアルバムの代表曲だが、個人的に好きなのは「Afro Groove」だ。ラスト・ポエツ譲りの耳障りのよいポエトリー・ラップと、オルガンやエレピや後半はムーグのようなシンセも飛び出すキーボードのレイヤー。アフロ・パーカッションのうねるポリリズムと一小節をイーブンに4つに割るリムショットのメトロノームのような直線的リズムが並走するというのがこの曲のリズム構成でその対比が気持ちがいい。ギル・スコット・ヘロンの「The Bottle」も同様にリムショットがイーブンに刻む曲で、2つをつないでみても違和感はほとんどない。同じくポエトリーをフィーチャーした「Revolution Poem」は、つんのめるような(マーチのようでもあり、微妙にニューオーリンズっぽくもある?)ハネるリズムが特徴。そこに、ブラス・シンセとサイケデリックな水滴のようなリキッド状のキーボードが重なる。フェラ・クティを連想させたりもする。サラリと聴かせるが、なかなか手強い曲だ。
「Natural Blaze」の発売当時、2001年というとハウスよりはテクノが好きだった時期で、というか、単純にトガった音が好きだったため(笑)、聴くまでには至らず。もったいないことをしたと思うが、今だから素直に聴けるという気もする。1999年にドイツのプレイハウス(Playhouse)がブレイズのコンピレーション「Blaze - Blaze Productions」を編纂していて、こちらは当時すぐに購入した。問答無用の名曲「Fantasy」のハーバートによるリミックスも同時期にプレイハウスから出ている。このコンピで一番耳に引っかかったのはやはりアフロなリズムの「Our Spirit」。実は、ブレイズのキーボードとリズム・プロダクションのセンス、軽すぎず重すぎないプログラミングの押し引きの妙味は昔から気になっているのだった。
ダンス・ミュージックは匿名性に近づくほど個性的になるというのは、誰の言葉だったか。類型と典型の間のグラデーションを往復するというのは、どんなジャンルのどんなステージにもあること。AORじゃなくてMOR(ミドル・オブ・ザ・ロード)という言葉も出てくるが、エクストリームに走らず、中道を行くというのは案外困難な道であり安易な道ではない。ブレイズはまさにそれをやろうとしているのだろうと思う。
0 件のコメント:
コメントを投稿