2007/10/09

Oto.Hito.E.Kotoba 07

モンスーンハウス


モンスーンな秋。

春雨ならアジアの
ヌードル文化圏で
広く流通する所の
緑豆春雨みたいに
元気の素にもなる
のだろうけれど、
秋雨は食えない。

雲ひとつない秋の
晴れ空は吸い込ま
れそうだ。

空がとても遠い。

季語はコスモスで
それはコスモス=
宇宙まで通じてる
気もして。

空<そら>見た子
とか。

岡崎京子がペンで
雲を描いただけの
真っ白な四角い枠
の扉絵みたいに。

ぽっかりと空いた
心の隙間にすっと
入り込む虚空。

虚と書いてうつろ
と読む。

うつろな目をして
夜の街の瞬きに、
きらめく雑踏に、
まだ見ぬ未来に、
うつろう。

そんなロンサムで
ワイルドサイドを
歩け、な90年代
初頭に戻ろう。

どこからともなく
流れてくるのは、
単調なグルーヴに
単調なリフ。

世の中のロジック
も歌のロジックも
無視した、感情の
エンベロープ。

「ジャーニーウィ
ズザロンリー」。

孤独と共に歩め。

92年にリリース
されたリルルイス
のアルバムだ。

水を浴びたリルの
顔のジャケ写真は
涙を流しているか
のように見える。

プリンスの処女作
「フォーユー」の
ジャケを思わせる
それは12インチ
ではなくトータル
なハウスアルバム
としての金字塔。

その前に即物的で
前衛的なヒット曲
「フレンチキス」
で一世を風靡した
彼だけに本作での
あまりにウェット
なセンチメンタル
ジャーニー絵巻は
何かの終わりさえ
告げたのだった。

「ニューダンスビ
ート」という曲で
うつろな男の声が
繰り返される。

「私は未来を見た
レコードカンパニ
ーの不景気は続き
コピー機が次々と
歌を複製する」

ハウスとはうつろ
な心のヒダを音に
映し出す音楽だ。

少なくとも90年
前後はそうだった
のだ。

広大な感情の海に
溺れたリルルイス
はこのアルバムを
最後に表舞台から
去ってしまう。

エンプティネス。

虚空は誰の心にも
ある。だからこそ
それは恐ろしくも
美しい。


●タイトル
ジャーニーウィズザロンリー
●アーティスト
リルルイス&ザワールド
●プライス
1,306円

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